白紙撤回(仮
これだけ精巧な人形を市ヶ谷が造ったことに素直に驚いた。
丁寧にベッドで寝かせるあたり死体と勘違いしてもおかしくない。

それにまだ疑問は沢山ある。

人形から市ヶ谷に視線を移すと俺は再び尋ねた。

「じゃあ……あのギターケースは何だったんだ?これと関係は?」

「あるよ。あれも人形が入ってたんだ。この娘と違って別の意味で特殊な一体で直接、納品する契約だったからね」

「特殊って?」

俺の質問に市ヶ谷はほんの少し戸惑いの表情を見せてあっさり答えた。

「性処理用じゃないやつ……赤ん坊だよ」


その答えに何故かゾッとし、それ以上、聞いてはいけない気がして俺は沈黙した。
数秒の沈黙の後、市ヶ谷は続けた。

「たまに死んだ人を忘れられなくて故人のドールを造ってほしいって依頼があるんだけど大概は断ってるんだ。けど今回は特別に造った」

「……依頼人は死んだ赤ん坊の親だったのか……」

「正解。でも結局はあの人形、数年後ここに戻って来るかもね」

「え……」

意味がわからず市ヶ谷を見ていると市ヶ谷は話は終わりと言わんばかりにベッドから腰を上げた。
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