白紙撤回(仮
市ヶ谷がベッドを退くと寝かされた人形が目につき俺はしばらく目が離せなかった。
これが人形だとわかると俄然と好奇心が沸く。

「……見てもいいか?」

「どうぞ?触ってもいいよ」

市ヶ谷は人形の全身が見えるようにシーツを剥いだ。
昨日は死体だと思ってまともに見れなかった。

セミロングの茶色い髪。白いノースリーブのワンピース。
小柄だから少女に見えていた。

顔は残念だが体は申し分ない。
実にリアルな体つきで皮膚の質感、指先まで綺麗だ。
クオリティが高い。

手に触れてみると人肌のような温かみはなかったが柔らかな弾力があり案外気持ちいい。
ダッチワイフらしいが、さすがに胸を揉むのは躊躇する。
しかしそこは市ヶ谷がさらりと勧めてくれた。


「胸とか触っても全然大丈夫だよ?」

「マジで?」

「……どう?」

「あー……スゲェな……」

素直な感想がぽつりと漏れた。
本物の女の胸の感触はしばらく触れてないので忘れたがこんな感じだったと思う。

俺は市ヶ谷に軽口を言えるくらい初めて見るオモチャに興味を持っていかれていた。

「俺、ダッチワイフって初めて見たわ」

「ラブドールだよ。これ高級品だからね」

「……いくらすんの?」

「君の給料の三倍から四倍は軽くするよ」

「高!?そんなん誰が買うんだよ!?」

「購入者がいるから僕の仕事は成り立ってるんだよ。まあ、用途も其々だし依頼にくる客層もバラバラだね」

「へぇ……下もリアルに造ってんの?」

「下は脱着式のオナホールだから基本ノータッチ。用途によって造らない場合もあるよ」

「へぇ……」

「さてと、僕の仕事がわかったところで山科君にはアシスタントとして働いて貰うけどいいよね?」

「……ん?」

「ん?」

「……えっ!?」

「拒否権はないよ」

ニコリと笑いながら言う市ヶ谷に俺の思考は停止した。
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