白紙撤回(仮
どのみち会社に戻っても俺に三百万近い借金は返せない。
市ヶ谷に借金をしてアシスタントとして働いて返せるならそっちを選ぶしかない。

要するに俺に選択肢なんてなかった。
結局、俺は自由なんかじゃなかったって話だ。


「……俺が来ないかと思ってたって嘘だろ」

「バレた?君は来るだろうって思ってたよ。思ってたより遅かったけどね」

「会社辞めるにも引き継ぎとかあるだろ。最低一ヶ月……辞めるに辞めれなかったんだよ」

「へぇー。意外に律儀だね」

「……アシスタントの話。アレってまだ有効か?」

「勿論。まぁ、中にどうぞ?」

市ヶ谷に案内されて家の中に入った。
とりあえず話が繋がっていてホッとした。
部屋の中はあの日よりも綺麗に片付いているような気がする。
部屋の中はひんやりとしていた。

「コーヒー入れる。適当に座って?」

市ヶ谷に言われ辺りを見渡してソファーに腰を下ろすと俺から市ヶ谷に何気ない話をふった。

「お前、市ヶ谷快彦って言うんだな」

「ああ、それが何?」

「いや、お前って俺からしたら正体不明だったからフルネームわかって安心したっつーか」

「名刺にそう書いてるけど本名かはわからないよ?」

「えっ!?」

「嘘だよ」

舌打ちして市ヶ谷を睨んだ。
市ヶ谷はふっと笑ってコーヒーカップを手にした。
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