たなごころ―[Berry's版(改)]
 情けないと感じながらも。未だに、予期せず人込みに紛れると、箕浪は混乱してしまう。何時まで経っても、克服することも出来ない。時折、箕波はどうしようも出来ない不安に襲われる。
 自分は、このまま。一生を終えるのではないかと……。

「っ冷た!」

 突如、頬に感じた冷気に。箕浪は思わず声を上げた。慌てて上体を起こしてみれば。眉を下げた笑実が、ペットボトルを手に影を作っていた。

「具合は、どうですか?」
「大分マシになってきた。悪いな、着いて早々」

 笑実が座れるようにと。身体を起こし、体勢を変えようとした箕浪を。笑実が制止する。そのままで構わないと。
 確かに、臥床していたほうが身体はずっと楽である。箕浪は逆らうことなく、再びベンチに身体を横たえた。笑実はベンチ脇に腰を屈め、手にしていたペットボトルのキャップを緩める。

「これ程まで込み合っているとは、予想してませんでした。私こそ、すみません。テレビニュースの力は偉大ですね」
「……猪俣笑実が謝ることじゃないだろう」
「でも、私が来たいと言わなければ、箕浪さんの具合が悪くなることもなかった訳ですから……」

< 100 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop