たなごころ―[Berry's版(改)]
笑実の言葉を受け、箕浪は眸を開いた。視線を向ければ、肩を竦めた笑実のそれと絡む。
「どういう意味だよ」
「箕浪さん、苦手……ですよね?人込みが」
「……気付いていたのか?」
「はい。なんとなくですけれど」
飲みます?と聞かれ、箕浪は小さく首を左右に振る。正直、箕浪は動揺していた。ほとんどの時間を、笑実とは『わにぶち』という狭い空間で過ごしてきたのだ。彼女が、箕浪の欠点を気付く機会など、ほとんどなかったはずである。
逸らされることなく、突き刺さる箕浪の視線を感じたのだろう。笑実は眸を一度伏せてから、口を開いた。
「最初に気になったきっかけは。異様に長い前髪とひっどく悪い姿勢です。私や来客者への態度、言葉遣いからは、気の弱い様子は感じられないのに。着ている服にも気を遣う人が、どうしてだろうって」
「気が弱くて、店主が勤まるか」
「そうそう、口も態度も横柄なのにって。――次に気になったのが、必要最低限しか外出しないことです。近所への買い物も、めったに行こうとしませんよね。私に指示してばかり。行くとすれば、隣のシガーバーくらい。夕方の短時間しか一緒に居ないとはいえ、気になりました。確実に、おかしいと感じたのは。会社訪問の時です。役職ある人間が出社するのに。いくらなんでも地下からなんて常識じゃないでしょう?」
「どういう意味だよ」
「箕浪さん、苦手……ですよね?人込みが」
「……気付いていたのか?」
「はい。なんとなくですけれど」
飲みます?と聞かれ、箕浪は小さく首を左右に振る。正直、箕浪は動揺していた。ほとんどの時間を、笑実とは『わにぶち』という狭い空間で過ごしてきたのだ。彼女が、箕浪の欠点を気付く機会など、ほとんどなかったはずである。
逸らされることなく、突き刺さる箕浪の視線を感じたのだろう。笑実は眸を一度伏せてから、口を開いた。
「最初に気になったきっかけは。異様に長い前髪とひっどく悪い姿勢です。私や来客者への態度、言葉遣いからは、気の弱い様子は感じられないのに。着ている服にも気を遣う人が、どうしてだろうって」
「気が弱くて、店主が勤まるか」
「そうそう、口も態度も横柄なのにって。――次に気になったのが、必要最低限しか外出しないことです。近所への買い物も、めったに行こうとしませんよね。私に指示してばかり。行くとすれば、隣のシガーバーくらい。夕方の短時間しか一緒に居ないとはいえ、気になりました。確実に、おかしいと感じたのは。会社訪問の時です。役職ある人間が出社するのに。いくらなんでも地下からなんて常識じゃないでしょう?」