たなごころ―[Berry's版(改)]
「箕浪さん、ずるいですよ。そんな言い方されたら、どんな女だって断れません」
「なんだ、知らなかったのか?男はずるい生き物なんだよ。付け入る隙があると思えば、逃さないさ。好きな女なら尚更だ」
「……1週間です」

 ため息をひとつ零し、笑実は受け入れる。箕浪の頼みを。

「1週間。箕浪さんの傍に居ます。アルバイトも続けます。学とのことも、考えます。でも、それで最後です」
「……うん、ありがとう」

 箕浪は、感謝の言葉を口にすると。笑実の頬に手を添えた。反射的に身構える笑実を、その手で制止させ。残る手で、彼女の前髪をかき上げる。顕になった額に。そっと唇を寄せた。浴室内に響く、小さなリップ音。
 すぐに離れた箕浪に、笑実は問う。

「……額のキスにも、意味があるんですか?」
「自分で調べろ。大丈夫、狐林学との清算が済んで、猪俣笑実が返事をくれるまで。これ以上は手を出さないから」
「すでに十分、セクハラ行為を受けていると思いますけれどね」

 更に反論しようとする箕浪を無視し。笑実は再び、箕浪の前髪に鋏を入れ始めたのだった。
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