たなごころ―[Berry's版(改)]
「笑実はいつみても、可愛いな」
「……いい加減にしてください」
「どうしてだろう。俺には笑実がすっごく可愛く見えるんだ。不思議だろう」

 恥ずかしげもなく。笑実が赤面するほど、甘く率直な愛の言葉を。箕浪は口にする。
 1週間、箕浪の傍に居ると笑実が約束した日から。笑実がわにぶちに居る間、箕浪は笑実の傍をほとんど離れようとしない。まるで、時間を惜しむように、笑実を見つめ、愛を囁く。挨拶代わりに。
 ――好きだ。可愛い。綺麗だ。愛おしい……と。
 一歩間違えれば、ストーカーと呼んでも差し支えないほどでもある。……いや、既にその定義に抵触していると言う人もいるかもしれない。
 箕浪がふざけているわけでも、笑実をからかっているわけでもないことは、笑実も十分理解していた。彼の眸が、常に真剣だからだ。笑実の眸を、まっずぐ見つめ、思いを乗せた視線。真剣だからこそ、箕浪の言葉が重く、笑実を混乱もさせていた。

 手にした本を振り上げ、笑実は箕浪を睨む。

「邪・魔・で・す。いい加減に仕事してください。ふざけてばかりいるなら、私も考えますよ」
「お、売り物で俺を殴るなよ」
「じゃあ、離れてください」
「本当は、俺が傍に居て嬉しいだろう?」

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