たなごころ―[Berry's版(改)]
 口角を上げ、楽しげに言葉を返す箕浪へ。反論しようとした笑実の声を遮るかのように。小さな機械音が店内に響く。わにぶちの奥にある、すりガラスの引き戸で区切られている一室からだ。パソコンを通し、何かしらの用件が入った合図だった。
 残念そうに、両肩を上げて。箕浪は脚立から腰を上げ、音の鳴った部屋へと足を向ける。その後姿を見送ってから。笑実は書架に詰まる本の背に、額を預けた。小さく頭を左右に振って。先ほどまで、箕浪が笑実に与えた甘い言葉を。頭から振り落とすように。ひとつも、残らないように。
 不意に。ジーンズのポケットに入れていた携帯電話が震えた。笑実がそれを取り出し、画面を確認すると。メールが1件届いていた。内容に目を通した笑実は、思わず首を傾げるのだった。

 ※※※※※※

「パーティですか?」

 わにぶちの隣にあるシガーバーに、笑実は来ていた。彼女が座るのは。シガーバーの2階にあるソファー席。先日も座った場所と同じ席でもある。そして、向かいには。喜多の姿があった。
 先程、笑実の携帯電話に届いたメールの相手が。目の前に座る喜多であったからだ。そのメールの内容と言うのが。
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