たなごころ―[Berry's版(改)]
「大丈夫か?だから言っただろう。俺の腕に捕まれって」
「……もう、大丈夫ですから」
「なんだよ、つまんねえな。綺麗に着飾った笑実を、皆に俺の者だって知らしめてやりたいのに。悪い虫も付かない様にな」

 箕浪の台詞に、笑実は自分の耳までもが赤くなっていることを自覚していた。最近の箕浪の言葉は、あまりにも。彼の気持ちに応えられないと決めた笑実には、あまりにも赤裸々過ぎるのだ。
 眉間に皺を寄せ、箕浪をきつく睨むことで。笑実は、僅かに揺れる自身の気持ちを誤魔化す。ただ、左手は。箕浪の袖を小さく摘んだままで。笑実のこの何気ない行動が、更に箕波の心を弾ませる。

 受付を済ませ、ふたりは会場内へ足を踏み入れた。
 瞬間、笑実は眩さに眸を閉じる。数秒後。ゆっくりと、再び瞼を開けば。シャンデリアから降り注ぐ煌びやかな明かり、会場内を彩る装飾品、そして色とりどりに着飾った人々の姿が飛び込んでくる。
 喜多は、今回のパーティをごく小さなものと表現していたが。ざっと見渡しただけでも、数百近くの人で溢れる会場は。とても小さいと表現できるものではないだろうと、笑実は感じていた。
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