たなごころ―[Berry's版(改)]
 市の中心部にある有名なホテルの、一番大きなホールがパーティ会場だと知らされた時から。嫌な予感はしていたが。今回に限って言えば、笑実は箕浪の勝手さに感謝していた。

 ※※※※※※ 

 勤務直後。箕浪の車に、問答無用で乗せられ、笑実が連れて来られたのは。笑実が一度も足を踏み入れたことのないような店舗だった。パーティに着てゆく笑実の服を買いに来たという。制止を求める笑実の言葉を気にも止めず、箕浪は笑実を車から引きずり出す。黒の細身のパンツスーツを身に纏った店員が、そんなふたりをドアを開け迎えてくれた。上品な笑顔で、案内されたソファーに腰掛けると。深い香りの紅茶が目の前に出される。だが、笑実がそれに口を付けることは出来なかった。
 出迎えてくれた店員によって、更衣室に押し込まれ、次々と渡される服を。着せ替え人形のように身に纏うことになったからだ。そして、評価を下すのはもちろん。ひとりソファーに腰を下ろす箕浪だ。

「胸元が開きすぎてる」
「スカートが短い」
「……授業参観にでも行くのか?」

 箕浪が、満足気に頷いた頃。既に笑実は疲れきっていた。何着の服に袖を通したか分からないほどだ。。
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