たなごころ―[Berry's版(改)]
 疲労感にうな垂れるよう、試着室から笑実が出てきた頃には。箕浪が既に会計を終わらせていた。怖いもの見たさの気持ちで、金額を確かめようと試みたものの。洋服にタグが付いているようなこともなく、店員に尋ねても笑顔を向けられるだけであった。
 ここで騒いでも仕方のないことと諦め。笑実は箕浪へ素直に感謝の言葉を口にする。

「……ありがとうございます」
「うん?俺が見たかったんだ。単なる我侭だよ。それに……俺のお守りは慣れてるだろう?」
「それとこれとは……」
「一緒だよ。そうそう、喜多がアルバイトの一環だって言ってたろう?必要経費だな。……それにしても」
「なんですか?」

 箕浪の視線が、笑実の足元からゆっくりと上がってゆく。
 箕浪が選んだのは。全体的に薄いピンク色――大人ピンクのドレスだった。アメリカンスリーブの膝丈スカート。背中に大きくスリットが入り、シフォンのチューブトップがちらりと見える。耳元には、箕浪の手によって付けられた大ぶりの真珠のイヤリングがあった。
 右手で、箕浪はそのイヤリングに触れる。笑実の耳朶を撫でる様に。

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