たなごころ―[Berry's版(改)]
「猪俣笑実。こちら、喜多を今回このパーティへ招待してくれた兎倉太市さんと、奥さんの葉子さんだ」
「猪俣笑実です、初めまして」
「兎倉太市です。こちらこそ、よろしく。……今日、彼女をここに連れてきたということは?彼女も事情を把握しているのかな?」

 太市の質問に、箕浪は返事をしなかった。短い沈黙が、相手には十分な回答になったようである。心得た様子で、太市は小さく数回頷くと。話題をすぐに変えたのだった。

「今日のパーティは製薬会社主催です。僕が出資しているわけではありませんが。思う存分、食べて飲んで。楽しんでいって下さい」

 その後。他愛のない短い会話を交わし、箕浪は話を切り上げふたりに別れを告げる。通りすがりのウエイターがら飲み物を受け取り、壁際まで進んでから足を止めた。会場全体が見渡せる位置である。
 周囲に視線を向けている箕浪に、笑実は問う。

「今のおふたりとは、どんな知り合いなんですか?」
「以前、太市さんからちょっとした依頼を受けたんだ。それ以来親しくさせてもらっている。医療関係は横のつながりが大きいからな。随分頼りにさせても貰っているよ」
「……事情ってなんですか?」

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