たなごころ―[Berry's版(改)]
「なんですか?」
「俺は、自分の子供は蝶よ花よと大事に、真綿に包むように育てたいんだ。環境の整った時期と場所でね」
「……随分、甘えたな子供が出来そうですね」
「笑実がしっかり押さえつけてくれればいい。怖いお母さんに、優しいお父さん。俺の理想だ」

 箕浪の、先を見据えている言葉に。笑実は一瞬返す言葉を見失う。共に歩む将来を、箕浪が考えてくれていることは嬉しい。だが、現実的に考えて、それは簡単な道ではないと。笑実でさえ想像に難しくないのだ。自分が今まで生活してきた環境のことである。箕浪がそのことに気付いていないわけはないと、笑実は分かっていた。
 無言で視線を逸らす笑実に、箕浪は苦笑を浮かべる。彼女の腰に腕を回し、自身の胸まで引き寄せた。両足、両腕を使って、箕浪は笑実を拘束する。

「俺は幸せだよ。ありがとう、笑実」
「私も、幸せです」

 ※※※※※※

 笑実の契約満期の日を迎える本日。図書館での勤務を終え、わにぶちを訪れた笑実を、喜多と箕浪が出迎えてくれた。しかし、目にした箕浪の姿に、笑実は息を呑んだのだった。

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