たなごころ―[Berry's版(改)]
 喜多の言葉の意図が掴めず、困惑の色を浮かべる笑実の腰を。いつの間に体勢を変えたのか。箕浪が徐に掴み、引き寄せる。倒れる込む形で、笑実はソファーに腰を下ろした。寝転がる箕浪の胸元に、寄りかかるように。肘を立て、頭を預けた箕浪が、喜多を睨みつける。

「猪俣笑実に余計なことを吹き込むなよ」
「はいはい」

 慣れた様子で、喜多は箕浪をあしらう。首を傾げる笑実に、喜多は小さな笑みで答えた。笑実の腰に回した腕を引き寄せ、くぐもる声で箕浪は失礼な言葉を言い放つ。当たり前のように。

「喜多、お前。邪魔者だって気付いてるか?」
「十分に気付いているけれど、今日が猪俣さんとの契約最終日なんだ。契約を交わした者として、俺も猪俣さんと話すことがある。正直な話。今だけで構わないから、箕浪に席を外して欲しいのが俺の本音だけれどね」
「……冗談いう……」

 箕浪の言葉を掻き消す様に、1階店舗へ来客があることを知らせる音が響く。笑実の影から、じとりと視線を送る箕浪に。喜多は勝ち誇ったように、眉を上げる。
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