たなごころ―[Berry's版(改)]
次の瞬間、箕浪の大きなため息と、喜多の笑いが重なった。その数秒間で、何かを諦めたのだろう。箕浪は笑実の腰から腕を解き、身体を起こした。喜多に忠告の一言を残してから、足早に階段を降りていった。乱暴な足音を響かせながら。
箕浪の背中を見送ってから、喜多は改まって姿勢を正した。表情は一変し、真剣なものだ。自然と、笑実もそれに倣う。一度、大きく息を吐いてから、固さを感じさせる声で。喜多は切り出した。
「猪俣さん」
「はい、なんでしょう?」
「私は……貴方に謝らなければならないことがあります」
「それは……」
「最初に、貴方が狐林学の件で役に立つのではないかと、巻き込もうと提案したのは私なんです」
喜多の告白に、笑実は思わず息を呑む。表情を変えることなく、喜多は先を続けた。
「既にご存知かもしれませんが。1ヶ月前。猪俣さんが私たちの前に現れた時点で、既に狐林学に関する依頼を受けた後でした。最終的計画まで立っている状態だったんです。彼をいつ、どういった形で追い込むのか。粗方の証拠を、私たちは掴んでいました。しかし、保険はあるにこしたことはない。猪俣さんを、私たちの手の内に引き込んでおいて、悪いことはないだろう。そんな考えからです」
箕浪の背中を見送ってから、喜多は改まって姿勢を正した。表情は一変し、真剣なものだ。自然と、笑実もそれに倣う。一度、大きく息を吐いてから、固さを感じさせる声で。喜多は切り出した。
「猪俣さん」
「はい、なんでしょう?」
「私は……貴方に謝らなければならないことがあります」
「それは……」
「最初に、貴方が狐林学の件で役に立つのではないかと、巻き込もうと提案したのは私なんです」
喜多の告白に、笑実は思わず息を呑む。表情を変えることなく、喜多は先を続けた。
「既にご存知かもしれませんが。1ヶ月前。猪俣さんが私たちの前に現れた時点で、既に狐林学に関する依頼を受けた後でした。最終的計画まで立っている状態だったんです。彼をいつ、どういった形で追い込むのか。粗方の証拠を、私たちは掴んでいました。しかし、保険はあるにこしたことはない。猪俣さんを、私たちの手の内に引き込んでおいて、悪いことはないだろう。そんな考えからです」