たなごころ―[Berry's版(改)]
27.掌
 カーテンの隙間から覗く日の眩しさで、箕浪は目を覚ます。顔を左へ傾ければ、自身の胸に顔を埋めるような形で眠る笑実の姿があった。前髪を掻き分け、そこに唇を寄せる。くすぐったそうに、眉間に皺を寄せた彼女を眺め、箕浪は頬を緩めた。肩の下から回した腕を引き寄せ、笑実を抱きしめる。飢えた子供のように、彼女を貪り、無理を強いたことは自覚していた。さほどのことで、笑実が目を覚まさないであろうことは、箕浪も予想済みだ。笑実の髪から漂う香りを、胸いっぱいに一度吸い込んでから。箕浪はベッドを抜け出した。素肌を晒している笑実を、しっかしと布団で隠すことは忘れずに。
 床で散らばる衣類を拾い、適当に身なりを整えて。寝室を後にした箕浪は、テーブルの上に置いてある携帯電話が、点滅を繰り返していることに気付いた。手に取り、内容を確認してから、僅かに口角を上げる。喜多から送られたメールであった。その場で返信を送ることなく、箕浪は携帯電話をポケットへ収める。キッチンへと足を運び、水を入れた薬缶を火にかけた。片手間に、お気に入りの紅茶の葉を用意して。
 プライベートルームの一角にあるソファーへ腰を下ろし、箕浪は携帯電話を取り出す。履歴から相手を探し出し、通話ボタンを押した。時刻はまだ6時。数回のコールの後、「もしもし」と言う不機嫌な相手の声が箕浪の耳に届く。予想通りの反応に、箕浪は楽しげに眉を上げる。

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