たなごころ―[Berry's版(改)]
 名前ばかり、形ばかりに在籍してきたことに、罪の意識は以前からある。会社経営に、自分は向いていないと入社前の学生時代から自覚していた。ただ、簡単に父親の期待を裏切ることも、箕浪には難しいことでもあった。わにぶちの後継者として生きる。これが、自分の道だと、一種の諦めのようなものも抱いていたことも事実だ。それでも、傍に喜多と言う支えがあったからこそ、箕浪は会社と言う組織の中で生きてこれた。喜多なくして、今の箕浪はない。誰の目から見ても、喜多の方が、あの会社には必要な人間であり、正しい選択でもあるのだ。喜多自身、それは自覚しているはずだ。
 昨日、初めて。箕浪はその思いを父親へ告げた。薄々、父とて予感はしていたはずだ。衝動に駆られ、頬を殴られたが。致し方ないと箕浪は覚悟を決めていた。
 まだ、ことはスタートをきったばかりなのだから。
 一度、ゆっくりと瞬きをしてから、箕浪は腰をあげる。未だベッドで眠りに付く、愛しい恋人を起こすために。寝室へと足を向けたのだった。

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