たなごころ―[Berry's版(改)]
 笑実が箕浪と正式に交際を始めてから数日後。なんの前触れもなく、突然。鈴音がわにぶちへ姿を現せた。正直、鈴音に対し良い印象を持っていない笑実は、今度はどんな失礼な言葉が飛び出るのかと身構えたものの。当の鈴音はさっぱりとした表情を浮かべ、笑実に非礼を詫びてきたのだ。あっけに取られはしたものの、それ以来、徐々に蟠りも解け、ふたりはよい友人関係を築いていた。
 付き合ってみると分かることもあるもので。鈴音は良くも悪くも、自分に正直な人であった。我侭に付き合いきれない部分は否定できないが、どこか憎めない愛嬌も持ち合わせているのだ。結局は、嫌いにはなれない。
 先日、笑実が箕浪の父親から呼び出された際にも。さりげなく同席し、上手にフォローへまわってくれたことには、感謝するばかりだった。

 やけに近い鈴音を遠ざけるように、笑実は首に巻きついている腕を解く。今の鈴音は、一目ぼれした男性のことで頭がいっぱいのはずである。故に、彼女が口にする話題は、その男性についてであろうことは、笑実から尋ねなくとも簡単に予想が出来た。しかし、鈴音の期待に応えるため、笑実は問う。

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