たなごころ―[Berry's版(改)]
 作業を再開した笑実は、書架に収まっている一冊に指を掛ける。瞬間、異変に気付いた。音がするのだ。カラコロと。首を傾げ、書架からそれを取り出して、笑実は理解する。本ではなく、本の形をした箱であったからだ。半分に開くことが出来、真ん中がくり貫かれているそこに。封筒と、鍵がひとつ入っていた。
 封筒を取り出し、手紙を広げる。横から、鈴音が顔を覗かせた。

「『鍵を持って2階へ』……これって箕浪さんの字?」
「たぶん。でも、なんだろう……」

 ふたりは顔を見合わせ、首を傾げるも。とりあえず指示に従おうと、その場を後に、2階へ続く階段を上った。

 探偵事務所として使われている2階。ドアを開け、笑実は室内を見渡す。誰の姿も、そこにはない。応接セットのソファーまで足を進め、気付いた。テーブルの上に、細かな彫刻の施された小箱が置かれていることに。その小箱には、小さな南京錠も。
 隣に居た鈴音と顔を見合わせてから、笑実はそれを手に取る。並んで、ソファーに腰を下ろしてから。笑実は先ほど見つけた鍵を、南京錠へ差し込んだ。抵抗もなく、右に90度回すと、小さな音と共に南京錠が外れた。ゆっくりと開いた中には、真っ白なパンプスと封筒がまた一通、入っていた。パンプスをテーブルに乗せ、笑実は封筒を開き、手紙を取り出す。
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