たなごころ―[Berry's版(改)]
5.緒の切れる音
空腹感に急き立てられるように、笑実は食堂を訪れていた。昼食時間を迎え、大学内の食堂は学生や職員で溢れかえっている。メニューから、笑実は迷うことなくハンバーグ定食を選んだ。食堂の端にスペースを見つけ、同僚も含めたふたり分の席を確保し、腰を落ち着かせる。少し遅れてきた同僚はカレーを選んだようだ。笑実が顔を綻ばせながら、ハンバーグにフォークを入れたところで、同僚が笑実に問いかける。
「笑実、今日、遅番じゃないでしょう。久しぶりに飲みに行かない?」
「うーん。魅力的なお誘いだけれど、ごめん。1ヶ月くらい付き合い悪くなる」
「何よ、もしかして狐林くんとデート?」
「違う違う。ちょっとね」
同僚のあからさまに不満げな表情を前に、笑実は苦笑するしかなかった。どれ程追求されようとも、今回の件を他言する訳にいかない。それが、喜多との契約であるのだから。
笑実自身が、ふれ回った訳ではないが。特別、構内で隠れて行動していた訳でもない。だからだろう、笑実と学生である狐林学が交際しているという事実を知っている人物は少なくなかった。目の前にいる同僚も、その中のひとりだ。だが、今回、笑実が目撃してしまった学の浮気現場について、誰にも、一切口にしていない。
「笑実、今日、遅番じゃないでしょう。久しぶりに飲みに行かない?」
「うーん。魅力的なお誘いだけれど、ごめん。1ヶ月くらい付き合い悪くなる」
「何よ、もしかして狐林くんとデート?」
「違う違う。ちょっとね」
同僚のあからさまに不満げな表情を前に、笑実は苦笑するしかなかった。どれ程追求されようとも、今回の件を他言する訳にいかない。それが、喜多との契約であるのだから。
笑実自身が、ふれ回った訳ではないが。特別、構内で隠れて行動していた訳でもない。だからだろう、笑実と学生である狐林学が交際しているという事実を知っている人物は少なくなかった。目の前にいる同僚も、その中のひとりだ。だが、今回、笑実が目撃してしまった学の浮気現場について、誰にも、一切口にしていない。