たなごころ―[Berry's版(改)]
 笑実もソファーへ腰を下ろし、小さく頷いた。ポットに用意してあった紅茶を、カップへ注いで。

「はい、月曜日は定休日ですから」
「それは丁度良かった。箕浪、会長が月曜日本社に来いって。箕浪ひとりだと心配だったけれど、猪俣さんに付き添ってもらえれば安心だ。笑実さん、申し訳ないが、月曜日。箕浪に付き添って本社へ言ってもらえないかな。さほど時間はかからないと思うから」

 突然身体を起こした箕浪が、興奮気味に声を上げた。氷嚢の存在も忘れてしまったのか。頭部にあったそれは、彼の身体をすべり、ソファーへ着地する。

「スカイプで会議には顔を出しているだろう。月1回の会議には出社もしている。俺は行かないぞ。約束が違う!」
「直接、会いたいと言っているクライアントが居るんだ。お前が来ないと契約しないと言ってる。会長の命令だ、行けよ。必ず」

 睨み合うふたりを前に、笑実はひとり紅茶を口にしていた。『会長』とは会社と言う組織でどれ程の地位にあたるのか……と思いながら。

< 50 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop