たなごころ―[Berry's版(改)]
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 箕浪と喜多が手がけている本業が、ある程度規模のある会社かもしれないと予想はしていたが。まさかこれほどまでとは思っていなかった、というのが笑実の正直な感想であった。興味がなかったとは言わないが。あまりにも規模が大きくなってしまうと、正直関わりたくはない。
 箕浪とふたり、車の後部座席に座り。笑実は目の前にある助手席を見つめる。そこには、箕浪専属の秘書の姿があった。車へ乗る前に、短く自己紹介を受けただけで、彼がどんな人物かを推し量ることさえ、笑実には出来なかった。

 ふと。笑実は自身の服装を見下ろす。白く、背中だけにプリーツの入った襟付きシャツと、赤いチェックのロングスカート。酷く可笑しな格好ではないだろうが、これほどまでの大きな会社へ赴くのに相応しい格好とも思えない。自身のクローゼット内を瞬時に思い浮かべ、笑実は肩を落とす。思いつくのは、就職活動時代に活躍した、黒く、シルバーのストライプの入ったパンツスーツくらいしか思い浮かばなかったからだ。勤務先が大学付属の図書館と言うこともあってか。笑実の普段着はカジュアルなものが多い。
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