たなごころ―[Berry's版(改)]
 笑実は隣に並ぶ箕浪を、ゆっくりと足元から頭の先まで眺める。鳥の巣のような頭に、眸を隠すほどの前髪はいつものことで。酷く身長が低く見えてしまう猫背も変わりはしない。そこまでは致し方ないとしてもだ。この服装に問題はないのかと、笑実は思わず首を傾げる。襟の大きく開いたシャツにジーンズ。オマケのように着用してはいるものの。喜多が普段着用しているスーツとは一味も二味も違う遊び心満載のジャケットとベスト。不安に感じるなと言うほうが難しいかもしれない。だが、箕浪にはそれを気にする素振りは一切見られなかった。
 笑実の視線に気付いたのか、箕浪が顎を上げ眸を細める。――もちろん、笑実からはっきりとその眸が見えたわけではない。隙間から伺い知れた憶測だ。

「猪俣笑実。何か言いたいことでも?」
「いえ、思っていたよりも随分と立派な会社だなあと。正直動揺しています」
「なんだよ、金持ちだと分かって媚びる気にでもなったのか?」
「ああ、なるほど。それもありかもしれませんね。でも、媚びるなら喜多さんの方を選びます」

 笑実の返答に、箕浪は慌てて身体を起こす。笑実に顔を寄せて。

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