たなごころ―[Berry's版(改)]
「喜多の方が良いって言うのか?俺よりも?あんなもやしみたいな身体の男が?」
「もやしって言う程の体格ではないでしょう、喜多さんは。スラリとした細身の男性は好きでよ。それに、喜多さんは大人な紳士ですし。……どちらにせよ、面倒ごとは避けたいので、実行に移そうとは思いませんが。と言うか、今も既に帰りたいです」

 笑実の言葉に反応し、まだ何かを口にしたそうにしていた箕浪を遮るように。笑実の鞄の中で、携帯電話が着信を知らせる。箕浪の身体を押し戻し、笑実は通話ボタンを押した。表示されている人物を確認してから。

「喜多さん?どうしたんですか」
『うん、逃げずに会社まで行けたかなと思ってね。これもアルバイトの一環として、最後まで箕浪のお守りよろしくね、猪俣さん』
「――はい、もちろんです」

 見えているのではないかと疑いたくなるほどのタイミングである。アルバイトの一環と言われてしまえば、逆らうわけにはいかない。逃げ出したいと思っていた気持ちを、笑実は必死で押さえ込む。思わず、隣でも同じ気持ちで居ただろう箕浪の腕を捕らえて。その箕浪が鳴らせた舌打ちを、笑実は敢えて聞こえないふりをした。

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