たなごころ―[Berry's版(改)]
 ふたりを乗せた車は、聳え立つビルの横にある坂を下り、地下駐車場へと進む。広いそこを抜け、一番奥に辿り着くと、ゆっくりと車が停車する。助手席からおりた秘書が恭しく開けるドアに恐縮しながら、笑実は箕浪に続き車を降りた。
 目の前のドアの横で暗証番号を打ち込み、小さな機械音と共に開いたそこを抜けると。エレベーターが目に付く。箕浪が慣れた手付きでボタンを押し、口を開いたエレベータ。そこに、普通ならば必ずあるであろう階数の表記がない。笑実は不思議に思い、箕浪に問う。

「階数ボタンがどうしてないんですか?このエレベーター」
「これは、役員しか使えないエレベーターだから。役員室の階へ直通になってる」
「なるほど……」

 どこまでも、笑実には初めての体験である。知らずと、本日何度目になるかわからないため息が口をついた。
 開いたエレベーターのドアの向こうは。足音が響かないほどに毛足の長い絨毯が敷き詰められた、静かなフロアーであった。迷うことなく突き進む箕浪に、少し遅れながらも。笑実は必死についてゆく。一際重厚なドアを抜けると、4つほどのデスクの置かれたスペースへ出た。それぞれに人が座っていたが、うちのひとりが箕浪の姿を認め、素早く駆け寄る。恐らくは、会長の秘書だろう。

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