たなごころ―[Berry's版(改)]
「箕浪本部長。お待ちしておりました」
「ん。今、会長は大丈夫なの?」
「はい、少々お待ちください」

 彼は先ほどまで座っていたデスクに戻り、受話器を取って言葉少なく会話を済ませると、再び箕浪の元まで戻ってくる。

「大丈夫だそうです」
「ん」
「あの!私は?」
「そうだな……お前も来い」

 箕浪の返答に、笑実は思わず抵抗を示す。眉間に皺を寄せて。笑実の使命は箕浪を会長の元まで連れてゆくことだ。今の時点でそれは達成されているのだから、笑実としては解放してほしい気持ちでいっぱいだ。箕浪もそれは十分に分かっているはずだろうが。笑実へ視線をむけたまま、箕浪も足を止めている。彼女がついて来ない限り、足を進める気はないという意味だろう。うな垂れながらも、笑実は仕方なく箕浪に従う。
 会長の秘書が開けたドアを抜け、視界に入ってきた様に。笑実は思わず頭を抱えたくなった。
 わにぶちに置いてあるソファーセットとは比べ物にならないほど、高級感のある応接ソファーに。恰幅の良い男性と、美しく着飾った若い女性の姿を見つけたから。

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