たなごころ―[Berry's版(改)]
「途中まで送ってくださる?」
「……断る」
「ツレナイのね。私、箕浪さんに会えるのを楽しみにしていたのよ」
「ふん、下らない」
小さな音と共に開いたドアを抜け。到着を待ちかねていた箕浪は小箱へと乗り込む。残されたふたりも、それに従って。
沈黙の続くエレベータ内。壁に背を預け立つ笑実は、目の前に居る箕浪と鈴音の背中を眺めながら、自身の心を必死に閉ざしていた。関わってはいけない。首を突っ込んではいけないと。まるで呪文のように、何度も繰り返し自身に言い聞かせる。同時に、視界さえも遮ってしまえば良かったのだろうが。ふと、捕らえてしまった。女性が、鈴音が。箕浪へ腕を絡め枝垂れかかるサマを。
一瞬で。笑実は自身が最近雨の降りしきる中、記録してしまっている映像を思い出してしまう。恋人である、学の浮気現場だ。
床が軟化してしまったかのように、自身の足場が不安定に感じ。笑実は大きく揺らぐ。額に手を当て、眸を固く閉じた。それと同時に、左右に頭を小さく振る。降って沸いてしまった映像を、記憶をどこかへ遠ざけるため。笑実の愚かしくも必死な努力だ。
笑実の様子に気付くことなく。鈴音は箕浪の耳元へ唇を寄せ、囁く。笑実にも聞こえる、ギリギリの音量で。紅いルージュの乗った唇が、妖艶に動く。
「……断る」
「ツレナイのね。私、箕浪さんに会えるのを楽しみにしていたのよ」
「ふん、下らない」
小さな音と共に開いたドアを抜け。到着を待ちかねていた箕浪は小箱へと乗り込む。残されたふたりも、それに従って。
沈黙の続くエレベータ内。壁に背を預け立つ笑実は、目の前に居る箕浪と鈴音の背中を眺めながら、自身の心を必死に閉ざしていた。関わってはいけない。首を突っ込んではいけないと。まるで呪文のように、何度も繰り返し自身に言い聞かせる。同時に、視界さえも遮ってしまえば良かったのだろうが。ふと、捕らえてしまった。女性が、鈴音が。箕浪へ腕を絡め枝垂れかかるサマを。
一瞬で。笑実は自身が最近雨の降りしきる中、記録してしまっている映像を思い出してしまう。恋人である、学の浮気現場だ。
床が軟化してしまったかのように、自身の足場が不安定に感じ。笑実は大きく揺らぐ。額に手を当て、眸を固く閉じた。それと同時に、左右に頭を小さく振る。降って沸いてしまった映像を、記憶をどこかへ遠ざけるため。笑実の愚かしくも必死な努力だ。
笑実の様子に気付くことなく。鈴音は箕浪の耳元へ唇を寄せ、囁く。笑実にも聞こえる、ギリギリの音量で。紅いルージュの乗った唇が、妖艶に動く。