たなごころ―[Berry's版(改)]
「箕浪さん、これから時間。あるんでしょう?」
「――ない。気安く俺に障るな」
再び。小さな音と共に、エレベータが地上に着いたことを知らせる。開いたドアに、待ちきれないとばかり、エレベーターを後にする箕浪だったが。笑実は未だに動くことが出来ずに居た。
乗車しようとした時、箕浪はようやっと気付く。当然、自身の後に付いてきているだろと思っていた笑実の姿がないことに。鈴音の身体を押しのけ、箕浪は踵を返した。忙しなく、エレベーターのボタンを何度も押し、開いた箱の中で。蹲る笑実の姿を見つけ、箕浪は駆け寄った。
「おい!どうした!?」
「すみません。……緊張したのか、急に眩暈が。少し経てば治まると思います。ごめんなさい、私に構わず先に行ってください」
笑実の顔は、エレベーター内のライト加減もあるのだろうか。色を失い、唇さえ赤みを忘れてしまっている。額を抑えている手も、本人が意図していないだろうに震えている。
眉間に皺を寄せ、舌を小さく鳴らしてから。箕浪は笑実を抱え上げた。あの、雨の日のように、だ。動揺する笑実を意に介さず、箕浪は待ち構えていた秘書にドアを開けさせ、笑実を車内へ放り込む。
嫌悪の表情を浮かべ、箕浪の行動を眺めていた鈴音に。箕浪は冷たい視線を送りながら、言葉を残す。
「――ない。気安く俺に障るな」
再び。小さな音と共に、エレベータが地上に着いたことを知らせる。開いたドアに、待ちきれないとばかり、エレベーターを後にする箕浪だったが。笑実は未だに動くことが出来ずに居た。
乗車しようとした時、箕浪はようやっと気付く。当然、自身の後に付いてきているだろと思っていた笑実の姿がないことに。鈴音の身体を押しのけ、箕浪は踵を返した。忙しなく、エレベーターのボタンを何度も押し、開いた箱の中で。蹲る笑実の姿を見つけ、箕浪は駆け寄った。
「おい!どうした!?」
「すみません。……緊張したのか、急に眩暈が。少し経てば治まると思います。ごめんなさい、私に構わず先に行ってください」
笑実の顔は、エレベーター内のライト加減もあるのだろうか。色を失い、唇さえ赤みを忘れてしまっている。額を抑えている手も、本人が意図していないだろうに震えている。
眉間に皺を寄せ、舌を小さく鳴らしてから。箕浪は笑実を抱え上げた。あの、雨の日のように、だ。動揺する笑実を意に介さず、箕浪は待ち構えていた秘書にドアを開けさせ、笑実を車内へ放り込む。
嫌悪の表情を浮かべ、箕浪の行動を眺めていた鈴音に。箕浪は冷たい視線を送りながら、言葉を残す。