たなごころ―[Berry's版(改)]
いくつかの書架を抜け、見つけた。笑実の姿を。変わることなく勤務し続けている事実を前に。箕浪は胸を撫で下ろしていた。無断欠勤と言う卑怯な手段を取られているにも関わらず。不思議と、怒りの感情が湧くことはなかった。
※※※※※※
「箕浪さん?」
大人しく、自身の腕の中に居る笑実を。箕浪はじっと見据える。笑実の顔をこれほどまでに至近距離で捉えたことは今までにない。一度、笑実が断りなく箕浪の前髪に触れたこともあったが。箕浪から、瞬時に距離を取ったからだ。
本人が気にしている、少し吊り目の眸。低めの鼻。ポテリと厚みのある下唇――。少し乾きの見えたその唇を、紅い舌がなぞり姿を消した。
次の瞬間。箕浪の心臓が大きく鳴り響く。自分の心音なのか、思わず疑いたくなるほどまで。全力で100メートルを走りきった後のように。それこそ、痛みさえ感じるほど。予期せぬ自身の変化に、箕浪は更に動揺する。笑実を抱きしめている手すら、震えてきていた。そして気付く。今の互いの体制に。
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「箕浪さん?」
大人しく、自身の腕の中に居る笑実を。箕浪はじっと見据える。笑実の顔をこれほどまでに至近距離で捉えたことは今までにない。一度、笑実が断りなく箕浪の前髪に触れたこともあったが。箕浪から、瞬時に距離を取ったからだ。
本人が気にしている、少し吊り目の眸。低めの鼻。ポテリと厚みのある下唇――。少し乾きの見えたその唇を、紅い舌がなぞり姿を消した。
次の瞬間。箕浪の心臓が大きく鳴り響く。自分の心音なのか、思わず疑いたくなるほどまで。全力で100メートルを走りきった後のように。それこそ、痛みさえ感じるほど。予期せぬ自身の変化に、箕浪は更に動揺する。笑実を抱きしめている手すら、震えてきていた。そして気付く。今の互いの体制に。