たなごころ―[Berry's版(改)]
 身体が自由になったことでスイッチが入ったように。笑実は自分を取り戻す。自身の唇に指先で一度触れてから、箕浪を睨み付けた。

「……なんですか、今のは」
「わりぃ……」
「っざけんな!」
「わっ!ごめんなさい!」

 次の瞬間。静寂が支配する図書館内では、非常に不釣合いな破裂音が響く。それが周囲の人の関心を集めたのは一瞬だった。どこから発生されたものなのか分からなかったことで、ざわめきの波紋は広がることなく、館内は再び静寂を取り戻す。
 だが、その破裂音が発生した場所を見つけた人物がひとりいた。喜多である。
 書架の間に座る箕波と笑実の姿。何時ぞやも、似通った場面をわにぶちで見たような気もするが。若干、ふたりに漂う雰囲気が違っていた。
 謝罪しているのか、必死に両手を摺り合わせながら、頭を垂れ下げている箕浪と。拳を振り上げている笑実の姿だ。

「何をしているの、ふたりとも」

 救いを求めるような箕浪の眸と、怒りを顕にした笑実の視線に。喜多は踵を返そうとしたのは、言うまでもない。


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