たなごころ―[Berry's版(改)]
「普段から、依頼者との接触は俺の仕事だろう。それに。何を仕出かしたのかは知らないけれど。少しは頭を冷やせ。ここには依頼者も対象者も居るんだ。目立つ行動は控えるべきだろうが」

 喜多の台詞を前に、箕浪はまるで子供のように。舌を鳴らし、不貞腐れた表情を顕にした。書架へ背中を預けて。その姿を前に。笑実も負けじと、喧嘩に勝った子供のように舌を出す。
 ふたりの様子を眺め、喜多は笑いが込み上げてくるのを、必死で我慢していたのだった。

 ※※※※※※

 店員が置いていった紅茶を一口含み、笑実は口を開いた。

「喜多さんの用件はどんなものでしょうか」
「俺から先に話していい?」

 笑実は頷き、先を促す。

「まずは報告。復讐の件の。当初の契約期間の半分を過ぎているから、途中経過をね」

 喜多がテーブルに置いた書類の束に、笑実は視線を落とす。隠し撮りと分かるような写真も数枚、クリップで止められていた。久しぶりに眺める元恋人。他人の手によって撮影された写真。誰よりも近く感じていたはずの存在だったはずが。今では、接点すら見つけられない。第三者の立場で見ているせいだろうか。自分がこの中に写る人物と交際していたことが、笑実には随分昔のことに感じられてしまう。
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