たなごころ―[Berry's版(改)]
 ここで、男性は笑実を漸く地面へ下ろした。だが、笑実の足には未だ力が入らず、崩れ落ちるように床へ座り込んでしまう。笑実の頭上で、遠慮ない溜め息がひとつ。居た堪れなさを感じ、笑実の顔が赤く染まる。

「立てないのかよ……どうしようもねえな」
「……すみません」

 改めて。自身の身体が随分冷えていること。そして、至るところが酷く痛むことを笑実は思い知る。知らずに、身体は振るえ歯が音を立て始めた。笑実の姿を眺めながら、喜多が口を開く。

「箕浪《みなみ》、またヒロイモノ?今度は人間で?女性?……珍しい」
「珍しいだろう。お陰様で、豪雨だ。天候にまで影響するとは、さすが俺様だよな」

 軽口と共に、喜多が差し出したバスタオルを箕浪と呼ばれた男性は奪い取る。彼は手にしたそれで笑実の身体を包み込み、再び抱き上げた。戸惑う笑実に、箕浪は足を運びながら面倒そうに言葉を綴った。

「とりあえず、身体を温めろ。話はそれからだ」

 頷く以外、笑実に出来ることはない。居た堪れなさを隠すように、笑実は自分を包んでいるバスタオルをかき寄せ、口元を覆った。

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