たなごころ―[Berry's版(改)]
 最初に、契約を結ぶ際。この復讐と言う名の件に料金は発生しないと言ったのは。他でもない喜多だったはずだ。変わることなく、口元に笑みを浮かべる喜多を前に。冷たい汗が笑実の背中を流れる。慄く唇で、笑実は問う。

「お金?」
「そう。違約金です。サインした契約書に、しっかり明記していましたでしょう?」

 喜多が、脇に置いていたファイルから、契約書を取り出す。それを笑実に差し出した。先ほどとは違う意味で震え続ける手で、契約書を受け取り。喜多が指し示す一文を、笑実は目で追う。

 ――最後に。この案件が全て終了・完結するまで。猪俣笑実は協力を惜しまないことを、ここに明文化し以上をもって契約書とする。
 同時に。この案件を猪俣笑実の一方的な理由で、中途放棄や中止することになった場合。違約金として、猪俣笑実は探偵事務所へ対し、違約金として70万円を支払うことに同意したものとする。

 カサリと、音を立てて契約書が歪む。
 やはり、ただより安いものはこの世にないのだ。笑実は自分の頭を抱えていた。

< 90 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop