たなごころ―[Berry's版(改)]
 箕浪の慣れぬ容姿に若干驚きながらも。呆れた気持ちを隠すことなく、盛大なため息をひとつ。笑実は零す。

「白々しい。これ全部、箕浪さんの仕業でしょう?」
「……よく気付いたな」
「こんな子供じみたこと。箕浪さんくらいしか思いつきませんよ」
「女はサプライズとプレゼントが好きだろう?」
「嫌いじゃないでしょうが。嬉しいかどうかは別です。貰う理由もありませんし。箕浪さんに全部、お返しします」

 笑実の言葉に、箕浪は一瞬表情を歪める。思わず視線を逸らしながら、笑実は気付いていた。何故、箕浪がこんなことを思いついたのか。プレゼントにどんな意味が込められるのか。だが、それは箕浪から聞きたい言葉だ。自分から口にするのでは、負けたような気分がして。何と、誰と勝負しているわけでもないのだが。
 次にかける言葉を互いに失い、気まずい沈黙が続いたのは数秒。
 突然、箕浪が笑実の抱えている花束とぬいぐるみを取り上げた。驚く笑実を余所に、箕浪は背を向け歩き出す。わにぶちへと。慌てて、笑実も彼に倣い歩き出した。
 箕浪が足を止めたのは。わにぶちの前に止められた車の前だ。そこには、会社訪問時に使ったような黒塗りの車ではなく。車高の高い、オフロード仕様のモノがあった。笑実でもよく知った、外車のプレートが付いていることには。もちろん見えないふりをする。
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