『GENERATHION』短編ファンタジー小説~雨と涙~
~雨と涙~
……雨。
シトシト降る冷たい雨…
私は雨が嫌い。
あの日も…雨が降っていた。
シトシト…
雨が…
「ジュン!!」
「!!キャア!!」
顔をあげるとそこには驚いた顔の仲間達がいた。
「………どうしたんだ?」
龍使いのリュウがボソっと呟くように声をかけた。
「…………大丈夫……」
ジュンはまた景色に思いを馳せる。
〜ここは…この近くに私の故郷が…あった…〜
ついさっき降ってきた雨を空と共に見上げる。
「雨は…きらい。」
「やだよね〜髪は濡れるし、服はビショビショ。あ!なんか街見えてきたよ!!」
ジュンの憂鬱にも気付かずヒナは明るく見えてきた街を指す。
「…再生されし魔導の街ミスティオ。」
リュウがジュンを振り向きながら小さく呟く。
「!?」
「手がかりがあるといいな。宝珠の。」
「…そうね…」
〜見透かされたかと思った…〜
「さ!行きましょ!」
ジュンは平静を装い歩き出す。
重い胸を抱えながら。
●1●
ゼェ…ハァ…
無音の街に足音と荒い吐息が響く
ゼェ…
先程まで降っていた雨は小雨になっていた。
バシャッ!
水溜まりにはまり、足をとられ動きをとめるジュン。
ジュンは一人でいた。
さっきまで何事もなく歩いていた自分がうそのように、
胸の鼓動は早く、そして重くジュンの体に響いていた。
ジュンが、走ってきた理由。
ジュンが一人でいる理由。
それは、ミスティオの街に、みえた赤い揺らぎ…
「な…んで…!」
荒い息をしながら、全力でもう一度街の中心部へ向かい走る。
街の輪郭が、見えると同時に仲間にはなにも言わず飛だしてきたのは赤い不吉な揺らぎが見えたからだった。
揺らぎは確信となり。ジュンの胸を焼いていた
街は大きく、紅く、黒い業火に包まれていた。
〜させない…!二度と…あんな想い…!〜
本人も気がつかない古い記憶のせいか街に駆けつけるのに魔法を使おうとは思えなかった。
〜あの炎の感じ…〜
身に覚えのある、冷たい、黒く、朱い炎…
ジュンは思わず身震いをしながら街に走り込んだ。
ミスティオの街は…ジュンの知る活気ある街の姿とは別物になっていた……
「誰か!!誰かいないの?」
街につくとそこは、炎と瓦礫とたくさんの人が倒れている状態……
戦おうと争った形跡も残っている…
目を覆うような状況だった。
「……!!だれか…」
悔しい思いで叫びながらジュンは走った。
だが、ジュンの声に応えられる者は誰一人いなかった。
〜でも…私には倒れているこの人たちを助けてあげることは…できない…!〜
悔し涙が頬を伝う…
ジュンは光と水の陣を必要とする癒やしの術がどうしても使えなかった。
なぜなのか彼女の師フィルに聞く前にある事件が起こってしまったからだ。
〜フィル姉………〜
ジュンはキュッと頭にあり帽子をかぶり直し、炎の濃い場所へと走る。
●2●
ザァ………………
雨が降る。
街の惨劇をより強く胸に焼き付かせるような……強く、悲しい雨。
ザァ………………
〜今行くから待ってて!フィル姉…!〜
「……!!」
幼き日のあの光景が蘇り、ジュンは思わず立ち止まる。
雨と冷たい炎と闇の煙と……黒い集団に囲まれる最愛の師…
〜今……!助けるから…!!〜
ザァ……………
「やだっ!」
記憶と心に飲み込まれそうになった、その瞬間、ジュンの瞳に光が宿る。
「………!!」
バッと後ろを振り返り、素早く杖を構える。
構えた先にいたのは…
『……バレてしまっては仕方がないな…』
ジュンの冷えきった心に火が宿る。
驚きと…
恐れと…
憎しみと…
「…おまえは!!!」
忘れもしない、忘れたくても忘れられない…
ある男の姿がそこにあった。
●3●
「お前は…!!」
『魔狩りだ。お前は街の生き残りか?』
ジュンの姿に少しも動じず涼しげに応えるその男…
魔狩り…この世界では魔法使いは貴重な人材とされてきた。そのため、昨今では魔の素質を持つ小さな子供の人身売買が問題になっていた。
黒いフードからのぞく紫のうねりのある長い髪、朱い切れ長の冷たい瞳…
ジュンはその姿を、今の今まで忘れることはなかった。
『誰だ?見覚えがあるな』
薄い笑みを浮かべながら、ジュンを見る男に吐き気さえ覚えながらジュンは叫ぶ。
「忘れたなんて言わせないわよ!!あなたのせいで…私の故郷とフィル姉は…!!」
堪えきれない感情と涙に声を殺されながら睨むジュンの瞳は烈火のごとく男を射抜き、氷のような殺気を放っていた。。
『ああ。いたな。昔、どこぞの田舎に急な洪水のおかげで取り残した「魔の子ども」が。』
「だまって!!」
ジュンはすぐ様、攻撃の陣をとる。
「ブラスト!!」
『無駄だ。』
鋭い鎌鼬と風が男を巻き上げ、切り刻むはずだった…
が
バシュ!!
男は手を伸ばし、ジュンの魔法を捻り潰してしまった。
「なっ!?」
ジュンはその様子に一瞬躊躇したが、すぐにまた陣をとる。
『何度やろうとも…
「ブレス!」
『無駄だ。』
男が手を返すと魔法は行くべき方向を変え、術者に襲いかかる。
「どうし…て?」
『……だからだよ。』
「え?」
●4●
『おまえは………だからだよ。』
「え?……」
思わず聞き返してしまった男の言葉…
あまりにも流れるように、染み入るように、ジュンの心へ冷たく溶け込んだ。
……聞きたくない。
……知りたくない。
…誰もジュンに、『そのこと』を話す者はいなかった。
一番信頼し、一番慕ったあの最愛の師でさえも…
『どうして、私には魔法使いみんなが使える癒やしの術が使えないの?』
ーオサナキヒノトイカケー
『答え』がそこにあった。
『お前は俺たち闇の集団と同じ『闇』の魔質を持っているからだよ。』
男の言葉は、
ジュンの表情を…
感情を…
心を…
凍らせてしまった。
●5●
「『魔質』が…闇。…あなた達と…同じ…?」
ジュンの動かない頭の中で何度もその言葉が舞う。
体も先程の跳ね返った自らの魔法で傷を負い、
すぐには立ち上がれない状況だった。
それ以上にジュンの心は動きを止め、時を止めるかのように思案が巡る。
「私が『闇』の…?そんな訳…!」
黒い気持ちを振り切るように立ち上がろうとした途端、
魔狩りの男は吹き飛んでいたジュンの帽子を踏みつける。
「!!!何す……!」
『魔力増強の魔飾りか?』
ジュンはすぐに動かない体を動かし、帽子を大事そうに引き寄せる。
「…そうよ!フィル姉が小さい私に少しでも強い魔法が唱えられるようにって……
何が可笑しいのよ!!」
ジュンの言葉の途中から男の笑い声が聞こえた。
ジュンは怒りを露わにして食いかかる。
『バカな。魔力が低い?おまえがか?
お前は昔から強力な魔法が使えたはずだ。闇のな。』
「………。」
『そんな子どもに魔力増強など必要ない。
それは闇の魔質を隠すための封印具だよ!』