狂奏曲~コンチェルト~
移動教室で、俺はほのかと一緒に美術室へと向かっていた。
「あ、つばちゃん」
廊下でかなめに会う。
かなめがほのかを見て、ほのかがかなめを見た。
「おう、かなめ」
「何の授業?」
「翼、遅れるよ」
話しかけるかなめをさえぎるように、ほのかが俺の腕を引っ張った。
しかし俺はそれを無視して、
「美術だ」
かなめはほのかを横目で見ながら、
「そっか。つばちゃん、絵が好きだもんね。それじゃあ、遅れたら悪いから」
「ああ、またな」
かなめは早歩きで教室に戻っていった。
「幼馴染み、ね」
「なんだよ」
何かを含んだように言うほのかに、俺はとげとげしい声を出してしまう。
「なんでもない。行こう、遅れる」
「…………」
釈然としないものを感じながらも、俺は美術へと向かった。
絵を描くことは、昔から好きだった。
本当は、俺が描いた絵を見て、かなめが笑うから好きだった。
「しかし、翼は本当に綺麗な絵を描くよね」
ほのかが感心したように、俺の手元を覗き込んだ。
今俺が書いているのは、空を含んだ風景だ。
「まあ、たった一つのとりえかな」
「またまた」
ときどき、暗い色の絵の具を紙に殴りつけたくなる。
真っ白な紙を、ぐちゃぐちゃにしたくなる。
そんな衝動を心に抱えている俺は、気が狂ってるのだろうか。