狂奏曲~コンチェルト~



 美術の帰りは、またほのかと一緒だった。

「あ」

 そのときほのかが小さな声を上げた。
 つられて俺も顔を上げると、かなめと見知らぬ男子が廊下で話しているところだった。

「本郷さんだよね」
「…………」

 俺は、ほのかに気づかれぬようにこぶしを握り締めた。
 つめが手のひらに食い込むほど。

 かなめ、笑顔を他の男に見せるなよ。
 かなめ、その笑顔は俺だけに見せてればいいんだ。
 かなめ、どうして俺だけを見てくれないんだ。

「翼?」

 ほのかが心配そうに俺を伺うが、俺はその場から逃げるように教室へと向かった。

「ちょっと待ってよ」

 ほのかが俺に声をかけるが、そんなことは気にしていられない。
 一刻も早く、他の男に笑顔を向けるかなめの姿を視界から消したかった。

「高島君ってば、冗談きついよ!」

 俺の背中に、そんなかなめの声が届いたのは、俺が教室へと入る直前だった。



 青い空を見上げると、全てを吐き出したくなる。
 俺の中に渦巻く黒い感情は、他の色と混ざってどんどん汚い色になっていく。
 その色で、空を塗りつぶしてみたら、どれだけ爽快な気分になるんだろうか。

 かなめを想う気持ちが大きすぎて、重たすぎて、押しつぶされそうになる。
 この狂ったような想いが、かなめを傷つけてしまいそうになる。

 力ずくででも、俺のものにしたくなる。

 かなめ、どうしようもないくらい、愛してるんだ。


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