狂奏曲~コンチェルト~



 勉強机に座って、問題集を広げても、何もはかどらない。
 ぼうっとして座っていると、誰かが扉をノックした。

「つばちゃん?」

 かなめだ。

「……開いてる」

 応えるのに少し間が開いたのは、かなめが他の男に、高島に向けていた笑顔を思い出したからに過ぎない。

「つばちゃん、ぜんぜん宿題が終わらないんだ。一緒にやろうよ」

 そう言って部屋に入ってきたかなめは、やっぱり可愛い。
 俺は笑って、

「偶然だな、俺もぜんぜんはかどってないんだ」
「ほんと? んじゃ良かった」

 かなめは嬉しそうに笑った。
 俺は予備の椅子を出して、二人で並んだ。
 隣に座ったかなめからは、良い匂いがした。

「翼!」

 部屋の外から、母親が呼びかけた。

「何?」
「ちょっと出かけてくるから、よろしくね」
「わかった」

 かなめと二人で、わいわいやりながら宿題を解いた。
 問題集が終わると、特にやることもない。
 しかしかなめは帰らなかった。
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