狂奏曲~コンチェルト~

「俺は、翼をよく知ってるから」
「……責めろよ……」

 俺の目から、涙がこぼれる。

「殴れよ」
「お前が自分をそんなに責めてるのに、俺までお前を責める必要はないだろ」

 俺は机を殴りつけた。
 机に丸いシミが落ちる。

「俺はな、かながお前を責めていたら、お前をぶっ殺しているところだった」
「……責めてるに決まってるだろ!」

 かなめを深く傷つけた俺。
 それを、かなめは恨んでいるに違いない。

 しかし、有紀は首を横に振った。

「お前、許せない相手を、忘れてしまえると思うのか?」
「な……に?」
「俺なら、忘れられない。もしも相手が許せないのなら、一生覚えていると思う。けど、かなめが忘れるという選択をした」

 有紀がなにを言いたいのかわからず、俺は有紀の言葉を待った。

「俺は、かながお前のことを忘れるという選択をしたのは、お前との思い出を守るためだったと思ってる」
「……そんな都合の良い話があるか……」

 かなめは、俺を恨んでいる。
 かなめは、俺を許せないと思っている。
< 29 / 301 >

この作品をシェア

pagetop