あの日の空を見上げて
親父は台所から包丁を持ってくると震える手で握りしめ母さんの前に座った。





母さんと親父は長い間話すこともなく見つめ合う。






二人の間には入り込めない空気が流れていた。





しばらくそのままだったが親父は覚悟を決めた様子で包丁を振り上げて





…グサッ!





母さんの胸に包丁を突き立てた。





傷口から血が吹き出し俺と海斗の顔にかかる。




俺達は血をよけることもできず恐怖でただ目を見開いてることしか出来なかった。





父さんは力をいれて包丁を抜くとすぐに自分の胸にも突き刺した。






―――俺はその時のことを一生忘れないだろう。





じっとりとした暑さ





暑さを助長させるようなしつこい蝉の鳴き声





生臭い血のにおい




そして目の前に降り注ぐ血の雨―





子供の目の前で親が自殺をする





それが子供にとってどんなにえげつないことか…




一生癒えない心の傷を負った俺達は生きていく意味もなくし





存在価値もなくした。





―――父さんと母さんは最後まで残酷な人だった。






そして……
残酷なほど愛し合っていたー―――
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