恋と愛とそれから彼と
『パフェでしょ?』
「え、」
『図星だね。チョコ?』
「いや、苺で‥‥」
『意外と乙女‥‥』
彼は「すいません」と右手を挙げ、珈琲とパフェを頼んだ。そして数分後にはテーブルにそれらが置かれる。
スプーンで掬い、口へと運ぶと甘酸っぱくて美味しく、彼は静かに珈琲を飲み、時折外を眺めていた。
「なんか大人だよね、ハヤト」
『タメじゃん。なに言ってんの?』
「いや、かたや苺パフェだし。」
『俺はいいと思うよ、苺パフェ。』
左の人差し指で目に掛かった前髪を払い、また珈琲を口に含んだ。
そしてカチャン、とカップをソーサーに置く音がし、「ナオ、」と呼ばれる。
口まであと数センチ。
スプーンに乗った生クリームと苺は、もうすぐそこまで来ていたのに。
口を開いていた為に、視線を彼に向けた瞬間の顔は随分と間抜けだったに違いない。
『‥‥ふっ、』
「‥‥!」
『ごめん‥っ、』
「笑わないで!」
『だって‥‥、』
「笑わないでってば!」
肩を揺らして笑う彼を睨んだが、効果ナシ。私はその間に苺パフェを二口も食べられた。
いつまで笑ってるの、ちょっと。
『いや、ごめん。』
彼は咳払いを一つ。
それを合図に真剣な眼差しに変わった。
私は思わずスプーンを置く。
『改めて、お世話になります。』
「本当に改まったね。」
『贅沢は言いません。』
そして一言。
『あ、それから‥‥宜しく。』
私が記憶に切り取ったのは
彼の笑顔とコーヒーの香り。
そして、握手を交わした瞬間の体温だ。