恋と愛とそれから彼と
4月のある日。
『ナオ‥‥、ナオってば。』
ベッドの脇に座り、どうしたもんか、と思案に耽る。
彼女は一向に起きる気配がない。
これだけ至近距離で呼ばれても起きないとは。驚く。
俺は立ち上がり、キッチンからフライパンとおたまを持ち出すと、漫画さながらのモーニングコールを試みる。
カンカンカン、と朝から煩いが仕方ない。
『起きろナオ!』
「‥‥‥はい、」
『いつまで寝てんだよ!』
「まだ8時‥‥、」
『じゃあ朝ご飯は抜きね。』
「起きます!」
『宜しい。』
彼女の部屋は外装こそ老朽化しているが(彼女曰く、レトロで異世界)、内装はリフォームされている為、綺麗だった。
長屋のようなアパートであり、確かにレトロだと思えば少し洒落ている。
家賃は何故か格安だ。破格。
『桜、今が見頃なんだってよ。』
「窓から見えるじゃん。ほら、」
のっそりと起き上がり、気だるく窓の外を指差した。
敷地内に桜の木は植えない方がいいと聞いたことがあったが、このアパートの敷地内には、立派な桜の木が一本植わっている。
『そういうことじゃ、』
「あ、ちょっと行くと川沿いに桜が綺麗に咲いてるよ。」
「見に行ってくれば?」と言い、洗面所へ向かった。
だからそういうことじゃなくてさ。