恋と愛とそれから彼と
彼女は昔から強者だった。
「天然」と言うと、なんだか可愛らしく思われがちだが、「疎い」と言えば、また違う。
疎い。彼女はとにかく疎い。
「あ、美味しそうだね。」
『ナオが作るよりは数千倍美味しいと思うよ。』
「すいませんね、不味くて。」
『食べたことないけどね。』
「いただきます」と互いに合掌をし、箸を持つ。
俺の箸は、なんと彼女の色違い。彼女はピンク、俺は青。
ナオが同居翌日に用意したものだ。
何か思い立ったように財布をひっ掴み、慌てて外へと飛び出していったと思ったら、買ってきたのは箸だった。
『お箸がお揃いって渋いよね』
「私の実家ね、親戚が近場に住んでるからか、良く集まるの。」
『うん、』
「お母さんが家族が増える度にお箸を用意してたから、来客用でもいいんじゃない?って私が言ったらね、」
ご飯を口に入れた。
何回か咀嚼し、再び続ける。
「自分のお箸があるって、嬉しいじゃない?って言われちゃって。」
『へぇ。』
俺は自分の箸を見詰め、彼女に一つ質問をする。
『俺、ナオの家族?』
「ううん、知り合い。」
せめて同級生と言ってほしい。
知り合いも間違ってはいないが、それではあまりに味気ない。
「でも、事の成り行きで同居しちゃったから、来客じゃないし‥」
『運命の悪戯だよ。』
「事の成り行きです!」
そんなに声を張らなくても。