恋と愛とそれから彼と
朝食を終え、食器を洗っていると、彼女は洗濯物を干し始める。
男の下着を文句言わずに洗濯し、干すあたりは見上げたもんだ、と思ったが、それなりに葛藤があったらしい。
「結婚前の女子が男性の下着を洗うとは‥‥」
『文句言わない。』
「でもさ!」
『お洒落な下着デショ?』
「これ、お洒落なの?」
食器を洗っていた手を止め、声がした方へと振り返った。
彼女は指二本でそれを摘まみ、俺に見せる。
そんな汚くないよ。
ましてや洗濯済みなわけだし。
『うん、洒落てる。』
「そうなんだ、」
『一回くらい見たことあるでしょ?』
「‥‥‥‥。」
『‥‥‥‥ごめん、なんでもない』
デリカシーが無かった。
悪気が無く、デリカシーも無いとなると質が悪い。
何事も無かったかのように食器を洗い始めると、彼女が歌を口ずさんでいることに気が付く。
ああ、「隅田川」か。
渋い選択だな。
思わず口許が緩んでしまった。
まぁ背中を向けているし、見えていないだろうからいいだろう。
全ての食器を洗い終え、タオルで手を拭き袖を戻す。
彼女も洗濯物を干し終えたらしく、カゴを持ちリビングを横切った。
『感心だな、』
随分綺麗に干してある。
風に泳ぐそれは気持ちよさそうに映った。