恋と愛とそれから彼と




そして掃除も一通り終えた頃。
もう一度、彼女にこう言ってみる。





『桜、今が見頃なんだって。』





ソファーに座る彼女は小首を傾げた。そんなに回りくどい文句だろうか。





「行きたいの?」

『だって日本人じゃん。』

「日本人は桜を見たいんだ、」

『見たくない?』

「そう言われると、見ない訳にもいかないじゃん‥‥」





意を決したようにソファーから立ち上がると、「10分待って」と告げ、寝室へと姿を消した。

ジャスト10分。
薄く化粧を施し、服も着替えている。


そして彼女を見るなり、俺は目をパチパチと瞬いた。

彼女が花柄のワンピースを持ち合わせていたことに驚いたのだ。





『そんなの持ってたんだ、』

「そんなのって言わないで!」

『見慣れないからさ、』





例えば平日は、ダークカラーのスーツだし、部屋着はゆったりとしたダークカラーのスウェットが主流で。

春めかしい柄や色とは無縁だったはずなのに。





「‥‥着替えますよ」

『いや、似合ってないとは言ってないよ。』

「本当?」

『本当。』





「似合ってないとは言ってない」
要するに、似合ってる。
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