恋と愛とそれから彼と




外は雲一つ見当たらない。時折吹き抜ける風が、枝を揺らし、桜は踊る。

その度に少し前を行く彼女のスカートがふわりと膨らみ、すらりとした足がリズミカルに一歩を刻んでいく。

すぐ脇に川があるというのに、流れる水の音は遠く聞こえた。





『ナオ、ちゃんと桜見てる?』





俺がそう言うと、彼女は足を止め振り返った。
「見てるよ!」と言う彼女の表情は、ぶすっとしている。

笑顔だったら満点あげたいくらいにいい画だったのに。残念。





『すぐ怒るよね、』

「怒ってないよ。」

『うん、怒られるようなことしてない。』

「じゃあ"すぐ怒るよね"とか言わないで。」

『ごめん、ごめん。許して。』





俺がへらへらと笑うと、彼女は呆れたように溜め息を吐く。

溜め息吐くとシアワセ逃げますよ、ナオさん。





『桜、興味無かった?』

「そんなことないよ。毎年見てるもん。」

『あんまり乗り気じゃなかったじゃん。』

「休日の昼間っていうのが嫌だっただけ。」





再び歩き始めた彼女に追い付く為に、少し歩幅を大きくする。

思いの外、あっさり追い付いた。





『なんで?』

「家族連れとかカップルばっかりじゃん。さすがに引け目を感じるよ。女子独りとか寂しいし。」

『へぇ。気にするんだね、』

「まぁ一応‥‥」

『良かったね、俺が居て。』





「そうだね。」と、冗談めかした調子で彼女が肯定し、互いの間をまた風が抜けた。

枝は揺れ、桜は踊る。
< 15 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop