恋と愛とそれから彼と
外は雲一つ見当たらない。時折吹き抜ける風が、枝を揺らし、桜は踊る。
その度に少し前を行く彼女のスカートがふわりと膨らみ、すらりとした足がリズミカルに一歩を刻んでいく。
すぐ脇に川があるというのに、流れる水の音は遠く聞こえた。
『ナオ、ちゃんと桜見てる?』
俺がそう言うと、彼女は足を止め振り返った。
「見てるよ!」と言う彼女の表情は、ぶすっとしている。
笑顔だったら満点あげたいくらいにいい画だったのに。残念。
『すぐ怒るよね、』
「怒ってないよ。」
『うん、怒られるようなことしてない。』
「じゃあ"すぐ怒るよね"とか言わないで。」
『ごめん、ごめん。許して。』
俺がへらへらと笑うと、彼女は呆れたように溜め息を吐く。
溜め息吐くとシアワセ逃げますよ、ナオさん。
『桜、興味無かった?』
「そんなことないよ。毎年見てるもん。」
『あんまり乗り気じゃなかったじゃん。』
「休日の昼間っていうのが嫌だっただけ。」
再び歩き始めた彼女に追い付く為に、少し歩幅を大きくする。
思いの外、あっさり追い付いた。
『なんで?』
「家族連れとかカップルばっかりじゃん。さすがに引け目を感じるよ。女子独りとか寂しいし。」
『へぇ。気にするんだね、』
「まぁ一応‥‥」
『良かったね、俺が居て。』
「そうだね。」と、冗談めかした調子で彼女が肯定し、互いの間をまた風が抜けた。
枝は揺れ、桜は踊る。