恋と愛とそれから彼と




「言いたくなければいいんだけどさ、」





そう切り出した彼女の声色には一抹の躊躇いが見えた。
続く質問は既に悟っているが、それでも「なに?」と聞き返す。





「なんで私なの?」

『なんでナオの家に転がり込んだかってこと?』

「そう。」

『時期尚早かな。』

「は?」

『それを語るにはまだ早い。』





眉を寄せ、キッと睨みつけられてしまう。そんな睨まなくても。

俺は「参ったな、」と呟き頭を掻いたが、彼女にはわざとらしく映っているに違いない。瞳がそう物語っている。





『理由はあるよ、一応。』

「一応じゃ困ります。」

『まぁまぁ。あるだけマシだよ。』

「‥‥‥。」

『そうだな、ナオが俺を好きになったら教えてあげてもいい。』

「なにそれ!」

『いや、本当に。だから頑張って好きになって下さい。』





笑みを一つ彼女に見せ、今度は俺が数歩前に出た。

そして彼女の気配が感じられなくなった頃、確認するように振り返る。





『いつまでそこで止まってるの?』





彼女は面食らったような表情で立ち尽くしていて、俺は「早く、」と手招をした。

はっと我に返ったように一歩を踏み出し、「寝言は寝て言って。」と虚勢を張る。

寝言で言えたら苦労しないって。
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