恋と愛とそれから彼と




「じゃあ質問を変えようかな‥」

『ノーコメントはアリ?』

「極力ナシ。」

『わかった。いいよ。』





彼女が追い付くのを待ち、それから肩を並べる。歩くペースが急に落ちた。

多分今の彼女は「桜、眼中に無し」だろう。
質問を考えることで精一杯に見える。





「職業は?」

『会社員。』

「もっと厳密に。」

『IT企業に勤めてます。』

「嘘‥‥、」

『本当。眼鏡掛けてるじゃん、夜とか。昼間はコンタクトだけど。』

「それ、関係ないよ。」





「じゃあ次、」と、また暫くの沈黙。今声を掛けたら噛みつかれそうだな、と思い、俺も黙る。





「恋人は‥‥いないよね?」

『面白いこと聞くね。居たらどうするの?』

「とりあえず全力で追い出す!慰謝料払えるほど稼いでないもん。」

『大丈夫。フリーです。』

「嘘ついてない?」

『勿論。』





仮に恋人が居たら、「頑張って好きになって下さい」とはさすがに言わない。いや、言えない。

「寝言は寝て言って」と言われたことから察するに、やはり冗談として片付けられているのか。

冗談キツい。そして酷い。





「ねぇ、ハヤト、」

『ん?』

「本当にハヤトだよね?」

『は?』

「だって昔、そんな格好良くなかったじゃん。」

『失礼だね、ナオ。』

「あ、整形したの?」

『してません。』





彼女が俺の顔を覗き込む。
思い切り視線を外すと、桜の花弁がひらりと落ちていく様子が映った。

至近距離には弱いもんだな。
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