恋と愛とそれから彼と
彼女の顔が紅潮し、途端に困る。まさかそんな反応を見せるとは。
精一杯突っぱねてくれて良かったよ。
『そろそろ戻ろうか、』
「もういいの?」
『うん、もう十分。』
もしかしたら、「桜、眼中になし」状態は俺の方だったのかもしれない。
彼女のあの紅潮した顔が、頭に収めたはずの春めかしい景色を一気に飛ばしてしまった。
それは要するに、きちんと見ているようで見ていなかったからで‥‥‥だけど彼女があんな顔をしたからでもあるし‥‥‥ああ、本当に、何なんだよ。
「夕飯‥‥、」
『まだ昼も食べてないよ』
「ハヤトはなんでも作れるの?」
『一般的なものなら。』
「あれ食べたい‥‥」
「あれって?」と聞き返すと、消えそうなほどに小さな声で「オムライス」と答えた。
『オムライスなら昼でもいいじゃん。』
「ダメ、夕飯。」
『なんで?』
「お昼の気分じゃない。」
『なにそれ、』
それじゃあ、まずは卵を買いに行かなきゃならないな。
この間、使い果たしたんだった。
このままスーパーに行くと言ったら、彼女も来るだろうか。
まぁ、他人よりものぐさだから、来ないって言うだろう。
『じゃあ俺、このまま買い物してくるよ。』
「え?」
『え、ダメ?』
「あ、いや‥‥」
首を傾げ、見詰めてみると、彼女は何か言いたげだった。
『なに?』
「せっかくだから、もう少し洋服を見せびらかしたいんだけど‥」
ああ、なるほど。
そういうことなら‥‥うん。
『一緒に行く?』
「うん、」
『本当は見せびらかしたいんじゃないくせに、』
「違うよ!本当に見せびらかしたいんだよ!」
『いいよ、いいよ。わかってるから。』
「勘違いしないで!」
なんていうことのない一瞬が輝くのは、天気がいいからか、それとも彼女が居るからか、答えはまだまだ先にありそうだ。