恋と愛とそれから彼と
『ところでナオ、』
「はい?」
『折角の同居だから、買い物に行かない?』
「いや‥‥、」
『‥‥?』
「あの‥給料日前だから、」
外には出たくない。
母の口癖は「給料日前の外出はしないに限る」だった。
外に出れば、何かとお金を使ってしまうのが人間の性らしい。
それには大いに同感だ。
そんな余裕のある独り暮らしではないから仕方ない。
『大丈夫。』
「は?」
『だって俺の買い物だもん。俺のお金で買うよ。』
「なら一人で、」
『そんな寂しいこと言わない。』
キャリーバッグの前で立ち上がり、「よし、行こう!」と意気込んだ。私は渋ったが、どうにも勢いに負けてしまう。
いけない、まただ。また飲まれてる。
『ナオは財布を置いていけばいいよ。鍵は忘れずにね。ああ、戸締まり‥‥』
「なんだか忙しない‥‥」
『同居って忙しないものだよ。』
「あ、はい。すいません。」
私は最後まで財布を持っていくか否か、と迷っていた。
テーブルに置いては持ち、持っては置く‥‥そして首を傾げて悩み、再び持つ。
そんなことを繰り返しているうちに、ハヤトは戸締まりを終える。
『テーブルに置くのはやめなよ。無用心。』
「やっぱり持、」
『持っていかなくていいからね。』
にっこり。
抗うことは止めにします。